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履歴の店舗

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名古屋市西区の幹線道路から一本入った通り沿いの、以前、和風居酒屋が入っていたテナントを改装して美容室にするプロジェクト。工事前は居酒屋の内装がほとんど残っている状況であった。

美容室の空間を確保するために間仕切り壁やフカされた壁の仕上げを剥がしていくと、一見何もないスケルトン空間に様々なテクスチャーが見て取れた。躯体のコンクリート、隣の店舗との間仕切りであるコンクリートブロック、タイルや漆喰を剥がした跡、前の店舗で使われていたタイルなど。それらは新しい仕上げ材で覆わなくても、その建物や以前に入っていた店舗の履歴を孕む豊かな内装仕上げに見えた。

一方、美容室というプログラムの中には、受付、待合、カットスペース、シャンプースペース、バックヤードなど複数の行為がある。それらの行為を空間の中にレイアウトし、それぞれの行為に応じた大きさの吊り天井とそれに接した部分の既存壁を塗装し、行為のある場所にのみ最低限の設えを施す。設えられた場所は、当然以前の間取りと異なるため、既存のテクスチャーとずれて新たな領域が作られる。設えられた天井や壁には、ダウンライトやスピーカー、コンセントなどの設備が埋め込まれ、置かれた家具との組み合わせでその行為を成立させる。厳格な行為のない動線空間、余剰空間などの場所は既存のままの仕上げとする。

上を見上げると、それぞれの機能の大きさの吊り天井がパラパラと浮いており、その隙間からは既存の躯体が見える。以前は別々の用途であった別々のテクスチャーが同じ空間に存在し、以前は1室であったテクスチャーが用途をまたいで存在する。また以前は室内であった痕跡が、間取りが変わったことにより外部にはみ出したりもする。

行為のある場所とない場所、設えられた場所と既存のままの場所、以前の店舗の間取りや部屋と部屋の境目、構造体と非構造体。そういったものは更新されるたびにリセットされるものではなく、履歴として繋がっていくものである。ここでは折り重なった履歴のレイヤーを常に横断しながら店舗の活動が営まれていくことで、さらにその場所の履歴を重ねていくようなことを考えている。

所 在 地:愛知県名古屋市
用 途:美容室
主 構 造:鉄筋コンクリート造
延床面積:59.54㎡

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